2008年9月24日水曜日

坂上アキ子個展-灰の記憶-


坂上アキ子個展-灰の記憶-

「ANY WHERE OUT OF THE WORLD/この世の外なら何処へでも」。フランスの詩人シャルル・ボードレールの散文詩のタイトルである。世間に倦み疲れた詩人は、母国語にすら失望して英語のタイトルを付けたと思しい。
 夢見がちに異国に憧れる人は多いが、世間から逃げ出すことのみを願えば何処も同じ、いっそこの世の外がいいと詩人は詠うが、ないものねだりは自明である。
 近代自我を精神の病として予告したボードレールですら、魂の帰る場所も、行く末も見通せなかった。一方、画家は見たものしか描けない。言葉が伝播的であるのに対し、絵画表現が収斂的であるが故。勿論これはアトリエの話。
 このところ、花や貝殻をモチーフとしている坂上アキ子の鉛筆画は、一見、この世の外に属しているかに見える。その心象風景が幻想によって支えら れているからだが、何故この世ならぬ印象がするのだろうか? 見て来たような嘘は、小説や映画の専売特許。絵画に出来ることは少ないが、時間制芸術ではない絵画が目指すのは常に永遠である。永遠の真理を識るのは神のみ。人間の属性が神的であるならば、森羅万象の細部に宿り給う神に呼応して、その影を余すところなく写し取ろうとする画家は、全的世界肯定に与している。それを愛と言っていいだろうか?
 ある意味残酷な、非人間的な愛のカタチ。どうやらこの世ならぬ印象は、鉛筆のクールな光沢と無人の光景に端を発していそうだ。宝塚歌劇を愛する坂上アキ子は、本来ロマネスクな女流画家だ。その人物画は常にディーヴァ(女神)であり、本人同様美しい。<灰の記憶>のタイトルを、フィニークス(不死鳥)の、愛の再生の物語と読み解くのは、筆者の穿ち過ぎだろうか。

            国際幻想芸術協会 代表 田中章滋(画家)

10月9日(水)〜 21日(火)11:00〜18:00(会期中無休)

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〒950-0901 新潟市中央区弁天3−1−8 tel&fax 025-244-6926

http://aigalleryniigata.com/

坂上アキ子ホームページ http://bxw.ish.client.jp/

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